小さなねじ

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今日は、私が小学校3年生の頃のお話をしたいと思います。

 私にも皆さんと同じように、小学生の時がありました。しかし、私の通う学校は皆さんの学校とは少し違っていました。例えば、ある朝いっしょに学校へ行った4年生の男の子が、帰りには腕にすりむいたような傷があり、先生に赤チンを塗ってもらって、全体が真っ赤になっていました。私が「どうしたの?」と聞くと、「軍事教練で、手が滑ってケガをした」というのです。とても痛そうでした。皆さんの学校で、国語、さんすう、音楽、体操といった時間があるように、私の学校には「軍事教練」という時間が、4年生以上の子にはあったのです。

その頃、日本はアメリカと戦争をしていたので、アメリカ軍が日本へ攻めて来るかもしれない。そのときは皆でアメリカの兵隊を、やっつけようというので、鉄砲に似せて作った板に、剣に似せて作った板を先につけて、「人間の心臓はこの辺にあるから、そこを目がけて『ヤッ』と突き出して殺せ」と教えていたのです。小学校で、人の殺し方を教えていたのです。私は3年生ですから、来年からはあんなことをしなければならない、嫌だなあと思いました。

ところが、8月になったら、日本は戦争に負けてしまいまいました。ほとんどの軍艦が沈められ、ほとんどの飛行機が撃ち落されて、広島、長崎に原爆が落とされて、もう日本には戦争を続ける力がなくなってしまったのです。ですから私は「軍事教練」を受けずに済みました。しかし、私の学校は敗戦の一週間前に爆弾を落とされ、木ッ葉みじんに吹飛ばされてしまい、街も同じようになったので、生徒も先生も皆逃げて、学校そのものが無くなってしまいました。

ですから私は、9月から翌年の2月まで、学校へは行きませんでした。3月に岡崎へ引越して来て、連石小学校へ入学させて下さい、と申込みに行ったところ、先生が「君は3年生の8月までしか学校へ行っていないから、もう一度、3年生からやりなさい」と言われました。ですから私は、3年生を2回したのです。

4年生から新入生です。先生からもらった「国語」の教科書はこんな一枚の大きな紙でした。まるで新聞紙のようです。これを切ってひもで綴じてくれたのは父でした。こんな教科書が出来ました。皆さんの教科書と比べてどうですか?とても粗末でしょう?でもこれが私たちの一年間の教科書だったのです。日本は戦争に負けて、教科書を作る人も機械もなかったんですね。

でもね! でも、でも、この教科書にはいっぱい楽しいお話が載っていたのです。中でも私のお気に入りは、2ページ目に載っていた「小さなねじ」というお話です。

小さなねじ

ある家に、とても古い時計がありました。古いけれども毎日元気に動いていました。ところで皆さん、時計の中を見たことがありますか? ないでしょう、ではちょっと、中を見せてあげましょう。そこには大きな歯車、中ぐらいの歯車、小さい歯車、もっと小さい歯車、早く動く歯車、ゆっくり動く歯車、ゼンマイは同じところを行ったり来たり、天秤のような形をした部品は右、左、右、左と頭をゆらしています。

小さなねじ

この時計の中に、そして一番下のところに、とても小さな歯車がありました。この歯車は上の方を見上げて、つぶやきました。「みんなとても一生懸命に働いているけど、僕は小さくてあまり役に立っていないみたいだなあ、ちょっと遊びに行ってこよう!」と時計から外へ飛び出してしまいました。しばらくは、ころころ転がって遊んでいましたが、しばらくすると疲れて寝てしまいました。

それからしばらく時が経って、この家の小学5年生の女の子と3年生の男の子と、父親が玄関の戸をガラガラと開けて帰ってきました。男の子が「時計が止まってる!」と叫びました。その時初めてこの小さな歯車は、自分が飛び出したために時計が止まってしまったことを知ったのです。お父さんが下に落ちてるとても小さな歯車を見つけて、「フッ」と口で吹いて歯車を元へ戻すと、時計は元のように、カッチ、カッチ、と動き始めました。

このお話を読み終わって、先生がこう言われました。「小さい歯車は子供のことを表しています。日本は戦争に敗けました。これから新しい国づくりを始めなければなりません。その国は今日のお話のように、子供も、大人も、お爺ちゃんも、赤ちゃんも、女の人も、男の人も、体に傷害のある人も、元気な人も、病気の人も、全ての人が大切にされるような国でなければなりません。」と話して下さいました。

ところで、このお話は、先ほど読んだ聖書の箇所と似ていると思いませんか。「人々が子供たちを連れて来た、弟子たちはこの人々を叱った。しかし、イエスは言われた。『子どもたちを来させなさい・・・・天の国はこのような者たちのものである。』(マタイによる福音書19:13~15)」

わたしたちは、イエス様に従って、平和な国づくりを目指して行きたいと思います。

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